イントロダクション

プーシキン、ドストエフスキー、チェーホフに続く現代ロシアの伝説的作家であるドヴラートフ

その知られざる激動の人生、希望と共に生きた6日間を切り取る

20世紀で最も輝かしいロシア人作家の一人、セルゲイ・ドヴラートフの激動の半生を、『神々のたそがれ』アレクセイ・ゲルマンを父に持つ、アレクセイ・ゲルマン・ジュニアが描く。第二次世界大戦から約25年後の1971年のレニングラード(現サンクトペテルブルク)にカメラを据え、ジャーナリストとして働きながら文筆活動にいそしんだ日々から切り取られた、ロシア革命記念日である11月7日の前日までの6日間に迫る。「雪解け」と呼ばれ言論に自由の風が吹いた社会に再び抑圧的な「凍てつき」の空気に満ち始めた時代。のちにノーベル賞を受賞する詩人ヨシフ・ブロツキーらも含め若き芸術家や活動家たちのひたむきな生が描かれる。ヘミングウェイばどアメリカ文学の影響を受け、飄々としたユーモア感覚でロシア文学史においてユニークな存在となったドヴラートフ。仲間と共に苦難をやり過ごし、孤独に葛藤し、自分の人生を生き抜こうとした姿は、私たちの現在と未来に強く訴えかけるだろう。
2018年ベルリン国際映画祭ワールドプレミアに正式出品され、芸術貢献賞で銀熊賞を、ベルリーナー・モルゲンポスト紙読者賞を受賞。劇中では街並みやインテリア、ファッションから小物に至るまで徹底した再現でブレジネフ時代の光と闇をリアルに描き出している。国内外でも話題となり英語圏とスカンジナビアでの配給権を、Netflixが獲得した。
ドヴラートフ役はセルビア人俳優ミラン・マリッチ。不当な弾圧による悲しみを繊細に演じ切り、スクリーン誌に「彼はドヴラートフそのものである」と言わしめた。脇を固める俳優陣には『ヴァンパイア・アカデミー』、『マチルダ 禁断の恋』のダニーラ・コズロフスキー、『裏切りのサーカス』、『ウルヴァリン:SAMURAI』のスヴェトラーナ・ホドチェンコワ、『裁かれるは善人のみ』のエレナ・リャドワなどロシア国内外で活躍する実力派が花を添え、撮影は『ゴッホ~最後の手紙~』や、『イーダ』でアカデミー賞撮影賞にノミネートされたウカシュ・ジャルが担当。

ストーリー

厳しい環境下であえぎつつも、精彩を放ち続けた
作家・ドヴラートフの人生における6日間を追った

ソビエトで活動するロシア人作家ドヴラートフは、友人であった詩人ブロツキーとともに、自分たちの才能を誇り、世間に発表する機会を得るために闘うが、政府からの抑圧によりその才能をつぶされていく。彼らはすべてをかなぐり捨て、移民としてニューヨークへと亡命する。厳しい環境下であえぎつつも、精彩を放ち続けたドヴラートフの人生における郷愁と希望の狭間で格闘した究極の6日間を追った。

キャスト

セルゲイ・ドヴラートフ役

ミラン・マリッチ

1990年、ベオグラード生まれ。大量虐殺と貧困に満ちた国で育った。ユーゴスラビアは戦時中に消滅し、セルビアは孤立し犯罪が増加していった。水泳選手やサッカー選手になることを考えたこともあった。 10代前半、セルビアの民主革命とミロシェビッチの没落後、歴史あるダドーヴ青年劇場に参加し、演技への情熱に目覚めた。若い時期は、ほとんど毎晩舞台で演じ続けた。
2009年、ベオグラード芸術大学の演劇芸術学部演技科に入学し2013年に卒業した。大学での教育課程が正式に修了する前に、いくつかのプロの劇場で俳優として活動を始め、ベオグラードのユーゴスラヴ・ドラマ・シアターに入団した。彼は大抵、革新的な演出家の下で演じることが多く、政治色の強い役柄を演じることが多かった。最も有名で成功したものはOliver FrljicのZoran Djindjic(12)である。これは、2003年に右翼の特殊部隊員によって暗殺されたセルビアの首相ゾラン・ジンジッチを描いた演劇だ。
また、彼はいくつかのショートフィルムにも出演し、セルビアの長編映画2作品で助演を務めた。近年、彼が脚本・出演したショートフィルムSupply And Demandでは、ニコラ・リュカと共同で監督も務めた。今作で初めて国際的な映画で主役を演じる。

元妻・エレーナ役

ヘレナ・スエツカヤ

1984年、ポーランド生まれ。主な出演作はCudowne lato(10)、Yuma(12)、Male stluczki(14)。

ヨシフ・ブロツキー役

アルトゥール・ベスチャスヌイ

1977年、ロシア・ペルミ生まれ。モスクワ・アートシアター・スクールのキリル・セレブレニコフのコースを卒業し、ゴーゴリセンターやプラットフォームなどのモスクワの劇場で活躍している。2010年Kiss Through The Wallでデビュー。ワシリー・アクショノーフの小説が原作の連続テレビドラマThe Mysterious Passionでもブロツキーを演じている。

友人、画家で闇屋のダヴィッド役

ダニーラ・コズロフスキー

1985年、ロシア・モスクワ生まれ。学生の頃、サンクトペテルブルグのマリー演劇劇場のリア王に出演し、今ではその劇場の主演俳優である。2004年にスクリーンデビュー。2006年、アレクセイ・ゲルマン・ジュニアのGarpastumの出演において、ロシア映画評論家が決める白象賞を受賞した。2012年『ゲット・ザ・ワールド』でゴールデン・イーグル賞を受賞。
4年後の同作続編にてロシアのアカデミー賞であるニカ賞を受賞。ロシア映画界人気No.1のスター俳優である。2014年にはマーク・ウォーター監督の『ヴァンパイア・アカデミー』においてハリウッドデビューを飾った。そのほかにも、女優キーラ・ナイトレイと共にシャネルのコマーシャルへの出演や、『VIKING バイキング 誇り高き戦士たち』(16)、『ハードコア』(16)、『マチルダ 禁断の恋』(17)などに出演している。

詩人、トンネル建設労働者のアントン役

アントン・シャギン

1984年、ロシア・トヴェリ生まれ。2011年Peer Gyntの演技でロシア政府文化勲章を受賞。同年、アートシアター国際映画祭において、アレクサンドル・ミンダーゼ監督のInnocent Saturday(11)の演技で受賞した。2014年にはドストエフスキーの『悪霊』の映像化作品でヴェルホーヴェンスキー役を演じた。その他出演作には『ホワイトアウト フローズン・リベンジ』(10)、Versus(16)などがある。

若手女優の旧友役

スヴェトラーナ・ホドチェンコワ

1983年、ロシア・モスクワ生まれ。2003年、スタニスラフ・ゴヴォルーヒン監督のBless The Womanでデビュー。この映画でロシアのアカデミー賞であるニカ賞にノミネートされた。2011年にトーマス・アルフレッドソン監督の『裏切りのサーカス』でハリウッドデビュー、2013年には人気シリーズ『ウルヴァリン: SAMURAI』にヴァイパー役で出演。2015年、ステファン・シュナイダーのスリラー映画Lady Of Csejteに出演。ロシア映画において、彼女は引く手あまたの人気女優となる。2016年の話題作、アンドレイ・クラフチュク監督の歴史的超大作『VIKING バイキング 誇り高き戦士たち』では、主演の一人を演じている。

文芸雑誌の編集者役

エレナ・リャドワ

1980年、ロシア・タンボフ生まれ。2002年映画デビュー。『宇宙を夢見て』(05)をはじめ、様々な映画に出演。The Geographer Drank His Globe Away(13)でニカ賞の最優秀主演女優賞、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『エレナの惑い』(11)で最優秀助演女優賞、『裁かれるは善人のみ』(14)で最優秀主演女優賞を受賞している実力派女優。

スタッフ

監督

アレクセイ・ゲルマン・ジュニア

1976年生まれ、国内外で高く評価されているロシア人監督の一人である。早くから監督としての地位を確立した、若手世代を代表する映画監督である。デビュー作The Last Train(13)は、ロッテルダム国際映画祭での受賞やテッサロニキ国際映画祭でのGolden Alexander賞、FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞の受賞に続き、ヴェネチア国際映画祭で新人監督に送られるルイジ・デ・ラウレンティス賞を受賞した。2作目のGarpastumは、2015年ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出された。さらに2008年『宇宙飛行士の医者』はヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞とオゼッラ賞(撮影賞)を受賞。多くの国際映画祭で高く評価され、2008年のロシア映画で最も成功した作品となった。2015年、Under Electric Cloudsはベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)他、アジア太平洋映画賞の監督賞などを受賞した。父・アレクセイ・ゲルマンの残した『神々のたそがれ』(2013)では監督亡き後、その志を引き継ぎ映画を完成させた。

撮影

ウカシュ・ジャル

1981年、ポーランド生まれ。2006年に国立ウッチ映画大学を卒業。アカデミー賞に輝いたパヴェウ・パヴリコフスキ監督の『イーダ』でアカデミー賞と英国アカデミー賞の撮影賞にノミネート。自身初の長編作品となった同作で、2013年カメリマージュ金蛙賞、第28回グディニャ映画祭、第29回ワルシャワ国際映画祭、第20回ミンスク国際映画祭、第20回ワルシャワ・ユダヤ人映画祭、アメリカ撮影監督組合賞、メディアス中央ヨーロッパ映画祭、サンフランシスコ映画批評家協会、ポーランド撮影者協会賞、ヨーロッパ映画賞など、数々の映画祭へ出品され、撮影賞を受賞している。長編の2作目、マグヌス・フォン・ホーン監督の『波紋』(15)は、2015年カンヌ国際映画祭(監督週間での上映)、2015年トロント国際映画祭(ディスカバリー部門)、サンセバスチャン国際映画祭(Zabaltegi賞)など、他にも多くの一流の国際映画祭で注目され受賞した。全編油彩アニメーション映画『ゴッホ 最期の手紙』ではゴールデングローブ、英国アカデミー賞、ヨーロッパ映画賞など、数多くの映画賞にノミネートされた。

美術・衣装

エレナ・オコプナヤ

テレビシリーズVecherniy Urgantで衣装デザインなどを担当。アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督のUnder Electric Cloudsでベルリン国際映画祭にて銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。今作でもコスチュームとプロダクションデザインが評価され二度目の銀熊賞を受賞。

劇場情報

全国共通特別鑑賞券1,500円(税込)絶賛発売中! ※当日一般1,800円の処
特典オリジナルポストカード付き!(数量・取り扱い窓口限定)

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コメント

どんなに強く押さえつけられようとも、曲げられない、変えられない。真の作家の言葉は誰も聞いてなくても生まれてくる。
詩と言葉の国ロシアの一面を十全に切り取った美しい作品。

― 深緑野分(小説家)

一画面一画面、背景が――というか前景と背景の関係が――ものすごく豊かで、字幕を読む時間が惜しいほど画面に引き込まれつづけた。

― 柴田元幸(アメリカ文学研究者・翻訳家)

レニングラード。雪解けの時代から、凍てつきの時代へ。だが、じつは現代の物語でもある。国家、抑圧、忖度、隠蔽…。
存在することの誇りを試されているのは、ドヴラートフだけではない。
今現在の私たちなのだ。

― 藤沢周(作家)

まるでその時代、その場所に居るかのような臨場感。70年代のソビエトファッション、共産アパートメントのインテリア。
ロシア芸術家たちの初々しい姿にうっとりする映像。
物はない、自由がない、利権・密告・弾圧・停滞の時代をあの時代は良かったなどとは云えないハズなのに、ある種、憧れをもっていい時代と云ってしまうのは映画の力か。
「見方を変えれば世界は変わる」と云うけれど、ピュアで愚かで美しい者と、賢くずるい者がいるのは昔も今も、世界中どこでも変わらないと教えてくれているようだ。

― 沼田元氣(日露友好の家コケーシカ代表/写真家詩人)

レールモントフの時代には、ロシアの文学者は決闘で死んだものだった。だが官僚主義のソ連ではそれは禁止。
社会のなかで生産性がないと判断された文学者は、亡命するしかない。でも亡命するとすぐに死んでしまうのがロシア人なのだ。
どうしたらいいだろう。
この人たちの文学への情熱を、どのように記憶しておけばいいのだろう。

― 四方田犬彦(映画誌・比較文学研究)

作家はどのようなジャンルの作家であれ、書いているときは間違いなく作家だが、そうでないときは、ただの人である。
それは私の口癖なのだが、じっさい、秩序なき世界をさまようドヴラートフは、何者でもないし、亡霊のようでもある。
ただ、資本主義も国家の統制も、彼を服従させることはできない。この世界に秩序がなくてもいいが、「同意しない」。
ドヴラートフの偽らないまなざしに、深く励まされる。

― 坂手洋二(劇作家)

ドヴラートフ――― それは私であり、あなたである。
閉塞感の中で息を詰まらせそうになりながらも、絶望の中で希望を失わずに生き続けた若き作家の姿を見事に描き出した。

― 沼野充義(ロシア文学者・名古屋外国語大学副学長)